3月7日(金)に行われたFilmarks試写会。90%を超える参加率でほぼ満席状態の場内では、上映後の興奮で場内の温度もやや高めに。そこで阪元監督と寺田プロデューサーによるトークショー&ティーチインが行われました。
原作の「ネムルバカ」は2008年に単行本が発売となった、17年前の漫画である。二人の原作と出会いの時系列を整理すると監督は「割と新しめ」とのことで「寺田さんに教えていただいて初めて読んだんです。寺田さんはどんな出会いで、この原作を映画化しようと思ったんですか?」監督が「ネムルバカ」と出会うきっかけとなった寺田に聞くと「僕も発売直後には読んでいなくて、2013年ぐらいに知人からお勧めされて読みました。すごく素敵な漫画だなと思って、ずっと原作ファンではあったんです。ただ最初から映像化したいな、という気持ちがあったわけではなくて、自分のお気に入りの漫画を置く棚に置き、周囲にはおススメの一冊として布教していました。そんな中、阪元監督の『ベイビーわるきゅーれ』を観たらこれがものすごく面白くて。そのまま『最強殺し屋伝説国岡』もその足で見に行きました。その時にこの監督に『ネムルバカ』を撮っていただいたらどういう風になるのかな、と思いました」と出会いから、阪元監督に繋がるまでを回想。阪元も続けて「初めてお会いした時にこの原作があるんですけどどう思いますか?って聞かれたことを覚えています。2022年ですね。『ベビわる』が公開されて次の年になるともう『ベビわる2』 の撮影前の時期でした」と映画『ネムルバカ』の始まりを明かした。
また監督は「読んですぐ面白いって思って。一巻完結だったんで、実写化のお話は他にも色々あったんですけど、なんと言うか…引き算しなくて済むような作品をなるべく撮りたいとは思ってました。この話をどうやって撮るんやろ?みたいなところを悩み過ぎるのも…船頭として、3~4 人乗りのボートで航海してきた人が突然タイタニック号で海に出るのは嫌じゃないですか?実写化するならば自分の中で身近なテーマで形にできるものはないのかと思ってたんです。しかも「ネムルバカ」は『ベビわる』でやろうとしていた、アクションを家の中の動作で描くっていう、そういうことを結構描いていて。すごい動きをするっていうよりは久保さんが演じた柚実が思いっきり座布団投げるとかのカット割りが完全にバトル漫画のコマみたいな描かれ方していて、そうこういうことがしたかったんだよな!と思って。「これは是非やりたいです」って返事をしました。今のところ最初で最後の原作物で撮りたいと思った作品なんです」と話し、原作と自身の形にしたい画にシンパシーを覚えていたことが本作に携わる決め手となったようだ。
監督と寺田は初期段階で音楽要素についてディスカッションしたそうで「モッシュとかダイブとかが凄まじいライブによく行ってたんです。ライブハウスって割と良くも悪くも排他的な空間だったんですよ。それがどんどんSNS も発達して、他人の客に対してこれが嫌だったとかネガティブなコメントが書かれるようになって、公共性が増えたというか。だからネムルバカのピートモスのライブはそういうのじゃなくて、ちょっと排他的にわざと見えるようになるべくできたらなと考えて撮りました。逆に、逆のことをしてましたね」と監督独自のこだわりを明かす。
そしてキャスティングについて話題が及ぶと「最初実写化ってなった時に実写化か~って、皆さん思うじゃないですか?あまり実写化にポジティブじゃないっていう意見もあると思うんで、その時にビジュアルが1番大事だなと。まず久保さんが軸になったなっていうところがありますね。久保さんはすごいスクリーンで映えるお顔立ちとその何でもない立ち姿感が僕はすごく好きで。そこが素晴らしいなと思います。平さん演じるルカは結構ハードルの高いキャラクターだし、ギター引けたりちょっとベらんめい口調もあったりの中で2人がこうピシッと並んだ時のこの身長の感じがもうぴったりで、そこが完璧な立ち姿だったんで「やったぜ、ここにおった」って思いました」監督が久保と平の二人を柚実とルカとして見つけた時の気持ちを語った。
ティーチインでは今作での一番難しかったシーンについて質問が。監督は「柚実が起きてくださいよ!ってルカの布団をバサバサやるみたいなシーンがあって、それが確か2人の出会いの初日の撮影だったんです。まだなかなか空気が作りきれてなくて、セリフを言ってるだけみたいになっちゃってたんです。そこで 1 時間ぐらい、その周りの30 人ぐらいのスタッフさんから「いつ始まんねやろ」って感じで見られながら、僕は柚実とルカの会話を作ってましたね」と話した。その中でも監督にとって抱腹絶倒のセリフがあるそうで「ルカに1人でスーパーぐらい行けよって言われて、1人スーパー?って柚実が聞き返すんですが、それ 1人焼肉とか 1人遊園地とかで言うやつっていうボケじゃないですけど、それをわざわざルカは別に突っ込まない。それに行きつくまでに久保さんと一生懸命話した末に、 1人スーパーええやん!となりました。一生懸命あのノリを作ることが 1 番時間かかったかも」と監督の作品の醍醐味の一つである会話劇の神髄を垣間見る返答にファンも満足げだ。
映画が完成した後に原作・石黒先生の方から言われたことや感想についても聞かれた監督は「宇宙人とか原作には出てくるんですけど、あと壁が立ちはだかる描写などを削ってしまいました…」と若干伏し目がちに致し方なく原作から外した要素のことをやりとりした様子を思い出す監督。寺田は「(石黒から)映画全体としては前向きな感想をいただけたのではと受け取っています。元々石黒先生が阪元監督の映画の大ファンだったそうでして、それを知らずに映画化のご提案に行ったんですけど、そのタイミングでも監督は阪元さんなんですか?と言っていただきました。進めていく中でも、お二人は作品づくりのセンスが近いのではみたいな話も出ていました」とフォローした。また寺田は「石黒先生が原作漫画を描いた時、20 代の終わりの時だったそうで、同じ20 代の終わりに差し掛かっている阪元監督に撮っていただいたことも、映画としても縁があったのかなと思っています」と何か運命的な引き合わせを感じさせる言葉で締めくくった。